Ecosystem 隠岐の生態系の成り立ち

隠岐ユネスコ世界ジオパークの、世界的に見ても不思議な生態系。
最近の研究によって、その要因が少しずつ解き明かされ始めています。
ここでは、杉の研究によって判明した植物の移動と、日本海を流れる対馬暖流がもたらした環境について解説します。

杉の研究で判明した植物の移動

島後には、八百杉、乳房杉、かぶら杉、マド杉の4大杉をはじめ、鷲ヶ峰のふもとの杉の天然林など、樹齢数百年を越える杉の巨木が多数あります。

八百杉
乳房杉
かぶら杉
マド杉

杉には大きく分けて3つのタイプがあり、太平洋側に分布する「オモテスギ」と日本海側に分布する「ウラスギ」、屋久島に分布する「ヤクスギ」となっています。
隠岐にもともと自生するスギは「ウラスギ」であることが分かっており、スギの研究から氷河期の植物たちの移動が少しずつ解明されています。

本州内陸では生育できなくなった杉が日本海側の中でも特に海に突き出た隠岐を逃避地としたのです。
その後、温暖化にともなって離島となった隠岐に最終氷期の杉たちが閉じ込められました。隠岐には現在もその子孫たちが残っており、固有の遺伝子を持っています。その杉たちは隠岐の貴重な宝といえるものです。
杉のように現在隠岐の植生を構成する不思議な植物たちも隠岐を逃避地としたのではないかと推測されています。

対馬暖流がもたらした環境

様々な環境で別々に見られる種類の植物が一緒に見られる不思議な植生をしている隠岐。
この植生がどのように形成されたのかを考えるには、隠岐を含めた日本の地形や気候がどのように変化していったのかが手掛かりになりそうですが、本来、それぞれの種が生息に適した環境ではない隠岐で生き続けていることの説明には、また別の要因を考えなければなりません。

その要因のひとつは、隠岐の周囲を流れる対馬暖流にあると考えられます。
日本海を流れる対馬暖流によって水蒸気が発生し、上空に大陸からの冷たい北西の風が流れ込むことによって、蒸気が風にのって運ばれます。そして隠岐を含む日本海側にたくさんの雨や雪、霧をもたらします。
海洋性の気候で冬の寒さと夏の暑さが控えめで、年中通じて雨が降り、湿度も高いという隠岐の気候は、様々な植物にとって生育に適していたのです。

?生態系とは?

地球上に住んでいる植物や動物、微生物などのすべての生き物は、土や空気、水や光などの地球からの恩恵を受けてその環境の中で暮らしています。また、これらの生き物はほかの生き物とかかわりあいながら生きています。そうした生き物たちと、それらが生きる自然環境を合わせて「生態系」といいます。
そして自然環境を作るのは地質や地形も関係しています。
隠岐ユネスコ世界ジオパークでは、生物だけでなく生物の暮らす環境まで含めた、生態系そのものも「大地の遺産」のひとつとして考え、紹介しています。

?生物の「種」ってなに?

現在の地球には色々な生物が暮らしています。これらの生物には様々な面で異なる部分があり多様性がみられる一方で、共通する部分もみられます。こうした共通する部分に基づいて多様な生物をグループ分けしており、グループ分けの基本的な単位が種です。種は共通した形態的・生理的(体の機能や組織)な特徴を持つ個体の集まりで、同じ種同士では自然環境での交配が可能で、生殖能力をもつ子孫を作ることができます。

生物たちははるか昔、地球上に出現した1種類の生物から進化したと考えられています。共通の祖先から長い時間をかけて生物の種類が増えていき、現在地球上では少なくとも200万種類の生物が暮らしています。そして、それぞれの生物たちは、空を飛ぶもの、木の中に暮らすもの、土の中に暮らすもの、水の中に暮らすもの、暑いところに暮らすもの、寒いところに暮らすものなど様々な環境で生きています。つまり様々な生物の種類がいるということは、環境も多種多様であるということです。

同じ祖先をもつ地球上の生物がなぜ多種多様に進化したのか?その原因を大地の変動や他の生物たちとの関係から考えることが生物を通して地球とその環境の変化を知る一歩になります。